本記事は情報提供を目的としており、医療行為の代替を意図するものではありません。症状が気になる方は、医療機関への受診をお勧めします。
重度の睡眠時無呼吸症候群と診断されCPAP治療を開始した45歳会社員。6ヶ月間のリアルな体験を語ります。
CPAP治療との出会い
私がCPAP(持続陽圧呼吸療法)治療を始めたのは、45歳の時でした。それまでの10年間、家族から「いびきがすごい」「時々息が止まっている」と言われ続けていましたが、「疲れているだけだろう」と深刻に受け止めていませんでした。しかし、日中の眠気がどんどんひどくなり、会議中に寝落ちしそうになったり、運転中にヒヤリとしたりする場面が増え、ようやく「これはまずい」と思い、睡眠外来を受診することにしました。
検査の結果、重度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)と診断されました。AHI(無呼吸低呼吸指数)は42回/時間[1]——つまり、1時間に42回も呼吸が止まっていたのです。「これは早急に治療が必要です」という医師の言葉に、背筋が凍る思いでした。
CPAP治療とは何か
装置の仕組み
CPAPは、鼻や口に装着したマスクを通じて、一定の陽圧(空気の圧力)を気道に送り込む装置です。この圧力によって睡眠中の気道の虚脱(つぶれること)を防ぎ、無呼吸やいびきを抑制します。いわば「空気の添え木」のようなもので、気道を内側から支える役割を果たします。
装置本体は小さな箱型で、ベッドサイドに置いて使用します。チューブでマスクとつながっており、電源を入れると設定された圧力で空気が送られます。最近の装置は非常に静かで、30デシベル以下(ささやき声程度)のものがほとんどです。
マスクの種類
CPAPマスクには主に3種類あります。鼻だけを覆う「ネーザルマスク」、鼻と口の両方を覆う「フルフェイスマスク」、鼻の穴に直接差し込む「ネーザルピロー」です。私は最初ネーザルマスクから始め、口が開いて空気が漏れる問題があったため、最終的にフルフェイスマスクに落ち着きました。

CPAP治療1ヶ月目:慣れるまでの苦労
最初の1週間は地獄だった
正直に言うと、最初の1週間は「こんなもの着けて眠れるわけがない」と思いました。マスクの圧迫感、空気が送り込まれる違和感、鼻の乾燥——慣れないことだらけで、マスクを外してしまう夜が続きました。初日は2時間しか装着できず、2日目は1時間で限界、3日目は着ける前から憂鬱になりました。
慣れるためのコツ
主治医からのアドバイスで、いくつかの工夫を試みました。まず、就寝前にテレビを観ながらマスクを装着する「慣らし運転」を始めました。ベッドに入る30分前からマスクを着けることで、装着への心理的抵抗が徐々に薄れていきました。
また、加湿器付きの装置に変更してもらったことで、鼻の乾燥が大幅に改善する可能性がしました。さらに、マスクのフィッティングを何度も調整し、空気漏れが少ないポジションを見つけました。2週間目の後半からは、4〜5時間連続で装着できるようになりました。
CPAP治療3ヶ月目:変化を実感
朝の目覚めが劇的に変わった
治療開始から約3ヶ月、CPAPに大幅に慣れ、毎晩6時間以上の装着ができるようになった頃から、明確な変化を感じ始めました。最も驚いたのは、朝の目覚めです。それまでは目覚まし時計が鳴っても体が鉛のように重く、起き上がるのに30分以上かかっていましたが、CPAPを使い始めてからは、目覚ましが鳴る前にすっきりと目が覚めるようになりました。
日中のパフォーマンスが向上
午後の会議中に襲ってきた耐えがたい眠気がなくなりました。集中力が持続し、仕事の効率が明らかに上がりました。同僚からも「最近、元気になったね」「顔色が良くなった」と言われるようになりました。
また、夜のいびきが大幅になくなったことで、妻が同じ寝室に戻ってきました。別々の寝室で寝ていた期間が3年もあったので、これは私にとって大きな喜びでした。

CPAP治療1年後:数値で見る改善
治療開始1年後の検査結果は、大きな改善の可能性を示していました。
・AHI:42回/時間 → 3.2回/時間(正常値は5以下)
・最低酸素飽和度:68% → 92%(正常値は90%以上)
・血圧:152/95mmHg → 128/80mmHg
・体重:82kg → 76kg(6kg減)
・ESS(エプワース眠気尺度):18点 → 6点(正常値は10以下)
特に血圧の改善は予想外でした[2]。主治医によると、SASによる夜間の低酸素状態が交感神経を活性化し、高血圧を引き起こしていたとのことです。CPAP治療でこの悪循環が断ち切られ、血圧が正常化したのです。体重の減少も、睡眠の質が改善されたことでホルモンバランスが整い、食欲の暴走が収まった結果でした。

CPAP治療を続けるためのアドバイス
マスクのメンテナンスを怠らない
マスクとチューブは毎日水洗いし、週に1回は中性洗剤で丁寧に洗浄しましょう。清潔を保つことで肌荒れや感染症を予防でき、装着感も維持されます。マスクのシリコンパーツは3〜6ヶ月ごとに交換が推奨されます。
旅行時の工夫
出張や旅行でもCPAPは持参しましょう。最近は重さ500g以下のトラベル用CPAP(ResMed AirMiniなど)も登場しており、持ち運びのハードルは大幅に下がっています。飛行機内への持ち込みも医療機器として認められています。
定期的な受診を継続する
CPAPは保険適用のため、月1回の受診が必要です。この受診で装置のデータ(使用時間、AHI、空気漏れ量など)を確認し、必要に応じて圧力設定の微調整を行います。面倒に感じるかもしれませんが、治療効果を最大化するためには欠かせないステップです。
CPAP治療にかかる費用
CPAPは健康保険が適用されるため、自己負担は3割負担の場合、月額約4,500〜5,000円程度です。装置はレンタルが一般的で、購入する必要はありません。月1回の受診料を含めても、月額5,000〜6,000円程度で治療が受けられます。

CPAP治療でよくある質問と回答
Q: CPAPを一生使い続ける必要があるの?
多くの方が気になるこの質問の答えは、「場合による」です。SASの原因が肥満にある場合、体重を十分に減量できればCPAPが不要になるケースもあります。実際、私も治療開始時82kgだった体重が76kgまで減り、主治医から「圧力を下げてみましょう」と提案されました。しかし、骨格的な要因(下顎が小さい、扁桃腺が大きいなど)が原因の場合は、長期的にCPAPを継続する必要があります。定期的に検査を受け、主治医と相談しながら判断しましょう。
Q: CPAP使用中に鼻が詰まったらどうする?
季節の変わり目や風邪をひいた際に鼻が詰まると、CPAPの使用が非常に辛くなります。私の対策としては、まず就寝前に鼻腔拡張テープ(ブリーズライト)を貼ること。次に、加湿機能の温度をやや高めに設定して鼻粘膜の乾燥を防ぐこと。それでも辛い場合は、一時的にフルフェイスマスクに切り替えて口からの呼吸も可能にしています。点鼻薬の使用は主治医に相談してからにしましょう。
Q: パートナーへの説明はどうした?
CPAPを始めることにためらいを感じる方も多いと思います。私の場合、妻は私のいびきと無呼吸を間近で見ていたため、むしろ治療を歓迎してくれました。「マスクをつけて寝るのはちょっと不格好だけど、いびきがなくなって静かに眠れるようになった方がずっといい」と言ってくれたのが、続ける大きなモチベーションになりました。

CPAP治療を検討している方へのメッセージ
CPAP治療は「最初の壁」さえ乗り越えれば、その後は快適そのものです。私がCPAPに大幅に慣れるまでに要した期間は約3週間。この3週間の我慢で、その後の人生が劇的に変わりました。朝の目覚め、日中の集中力、血圧の改善、体重の減少、そして何より妻との関係の改善——これらすべてが、あの小さなマスクがもたらしてくれたものです。
いびきや日中の眠気に悩んでいる方、パートナーから「息が止まっている」と言われたことがある方は、ぜひ一歩を踏み出してください。最寄りの睡眠外来に電話をして予約を取る——たったそれだけで、人生が変わるかもしれません。
なお、CPAP以外にも、マウスピース治療(OA治療)や手術治療など、SASの治療法はいくつかあります。どの治療法が最適かは、検査結果や患者さんの状況によって異なりますので、まずは専門医に相談することが第一歩です。
CPAP以外のSAS治療選択肢
マウスピース治療(口腔内装置:OA)
CPAPに慣れることができなかった方や、軽度〜中等度のSASの方には、マウスピース治療(OA治療)という選択肢があります。下顎を前方に固定するマウスピースを就寝時に装着し、舌根の沈下を防いで気道を確保する方法です。歯科医院で精密な型取りを行い、個人に合わせたカスタムメイドのマウスピースを作成します。
メリットは、CPAPと比べて装着感が軽く、持ち運びも容易なこと。デメリットとしては、重度のSASには効果が不十分な場合があること、長期使用で噛み合わせに変化が生じる可能性があることです。保険適用の場合、自己負担は1〜2万円程度です。
ナステント
ナステントは、チューブ状のシリコン製デバイスを鼻から挿入し、軟口蓋まで到達させることで気道を物理的に開存させる治療法です。日本で開発された独自の製品で、使い捨てタイプと再利用タイプがあります。CPAPほどの装置は必要なく、出張先や旅行先でも手軽に使用できます。
参考文献
[1] 日本睡眠学会. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020.
[2] Pepperell JC, et al. Ambulatory blood pressure after therapeutic and subtherapeutic nasal continuous positive airway pressure for obstructive sleep apnoea. Lancet. 2002;359(9302):204-210.

まとめ
CPAP治療は最初の1〜2週間が最も辛い時期ですが、そこを乗り越えれば、文字通り「人生が変わる」治療です。私の場合、日中の眠気の解消、血圧の正常化、体重の減少、そしてパートナーとの関係改善という、想像以上の恩恵を受けることができました。現在もCPAPは毎晩欠かさず使用しており、今では「CPAPなしの生活は考えられない」と感じています。いびきや無呼吸に悩んでいる方には、まず一歩を踏み出して、睡眠外来を受診されることをお勧めします。