本記事は情報提供を目的としており、医療行為の代替を意図するものではありません。症状が気になる方は、医療機関への受診をお勧めします。
たかがいびきと侮るなかれ。睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性を自宅でチェックできる10の質問を、専門医が解説します。
あなたのいびきは大丈夫? いびきをかいていると家族やパートナーから指摘されたことはありませんか? あるいは、自分自身で朝起きたときに口が乾いていたり、日中に強い眠気を感じたりしていませんか? いびきは非常にありふれた症状ですが、その裏に深刻な健康リスクが潜んでいる場合があります。
日本人の成人男性の約24%、女性の約10%が習慣的にいびきをかくとされています[1]。このうち約10〜30%は睡眠時無呼吸症候群(SAS)を併発しているとの推計があります。SASは高血圧、心疾患、脳卒中、糖尿病のリスクを高める可能性がある疾患であり、早期発見・早期治療が非常に重要とされています。
この記事では、自分のいびきの危険度を簡単にチェックできるセルフチェックリストと、いびきの原因を特定するための情報をお届けします。
いびきセルフチェックリスト(全15項目) いびきの状態について 1. 毎晩、または週に3回以上いびきをかく 2. いびきの音が隣の部屋にも聞こえるほど大きい 3. いびきの途中で呼吸が止まることがあると指摘された 4. 大きないびきの後に「ガハッ」と呼吸を再開することがある 5. 仰向けで寝るといびきが特にひどくなる
日中の症状について 6. 十分に寝たはずなのに朝から疲労感がある 7. 日中に強い眠気があり、仕事や運転に支障がある 8. 朝起きたときに頭痛がする 9. 朝起きたときに口やのどが乾いている 10. 集中力の低下やイライラを感じることが多い
身体的特徴・生活習慣について 11. BMIが25以上である(体重kg÷身長m÷身長m) 12. 首周りが男性で43cm以上、女性で38cm以上ある 13. 週に3回以上飲酒する 14. 喫煙している 15. 鼻づまりがあるか、口で呼吸する癖がある
結果の見方 0〜3個該当:軽度リスク(グリーンゾーン) いびきの頻度や程度が軽い段階です。生活習慣の見直し(横向き寝 、適度な運動、飲酒の調整)で十分に改善が期待できます。市販のいびき対策グッズ(口テープ 、鼻腔拡張テープ など)も効果的です。ただし、3番や4番に該当する場合は、該当数に関わらず医療機関の受診を検討してください。
4〜7個該当:中等度リスク(イエローゾーン) いびきが慢性化しており、睡眠の質に影響が出ている可能性があります。生活習慣の改善に加え、耳鼻咽喉科や睡眠外来の受診をお勧めします。自宅でできる簡易検査(パルスオキシメトリー)で、睡眠中の酸素飽和度を確認してみるのも有効です。
8個以上該当:高リスク(レッドゾーン) 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性が高い状態です。できるだけ早く睡眠専門医を受診し、精密検査(終夜睡眠ポリグラフ検査:PSG)を受けることをお勧めします。SASは適切な治療で大幅に改善する可能性がする疾患です。放置せず、早めの受診をご検討ください。
いびきの原因を特定する 原因1:肥満 最も多いいびきの原因です。首周りの脂肪蓄積により気道が圧迫されます。BMIが25以上、首周り男性43cm以上・女性38cm以上が目安です。体重を5〜10%減量する だけで、いびきが大幅に改善するケースが多く報告されています。
原因2:口呼吸 口で呼吸すると、下顎が後退し舌が喉に落ち込みやすくなります。朝起きたときに口が乾いている方は口呼吸をしている可能性が高いです。口テープやあいうべ体操で改善できることが多いです。
原因3:鼻づまり アレルギー性鼻炎、鼻中隔湾曲症、慢性副鼻腔炎などが原因で鼻の通りが悪いと、口呼吸になりやすく、いびきが発生します。耳鼻咽喉科での治療が有効です。
原因4:加齢による筋力低下 40代以降、咽頭周辺の筋肉が衰えると、睡眠中の気道の虚脱が起きやすくなります。舌や口周りの筋力トレーニング(あいうべ体操、舌のプッシュアップなど)で予防・改善が可能です。
飲酒は上気道の筋肉を過度にリラックスさせ、いびきを悪化させます。普段いびきをかかない方でも、飲酒後にいびきをかくのはこのためです。就寝3時間前までに飲酒を終えることが推奨されます。
原因6:睡眠時の姿勢 仰向け寝は重力により舌や軟口蓋が気道に落ち込みやすく、いびきの主な悪化因子です。横向き寝に変えるだけで、いびきが50〜60%軽減するケースもあります(※体位依存性のいびきの場合)[2]。
スマートフォンアプリでいびきを記録しよう 自分のいびきを客観的に把握するために、スマートフォンのいびき記録アプリを活用しましょう。「SnoreLab」「いびきラボ」などのアプリは、就寝中のいびきの音を自動で録音・分析し、いびきのスコアや時間帯別の推移をグラフで表示してくれます。
これらのアプリを1〜2週間使用し、いびきのパターンを把握することで、どの対策が効果的かを判断しやすくなります。また、医療機関を受診する際に録音データを持参すると、診断の参考になります。
いびき外来の受診ガイド 何科を受診すればいい? いびきの相談は、耳鼻咽喉科、呼吸器内科、睡眠外来が専門です。「睡眠外来」「いびき外来」を設けている医療機関を探すのが最もスムーズです。初診時に予約が必要な場合が多いため、事前に電話確認しましょう。
検査の流れ 初診では問診、口腔内の診察、鼻腔の診察が行われます。SASの疑いがある場合は、自宅でできる簡易検査機器を貸し出されることが多いです。簡易検査で異常が見つかった場合は、病院で1泊の精密検査(PSG検査)を行い、正確な診断が下されます。
ESS(エプワース眠気尺度)で日中の眠気を評価 いびきのセルフチェックと合わせて、日中の眠気の程度を評価する「ESS(エプワース眠気尺度)」も確認しましょう。これは世界中の睡眠医療で使われている標準的な眠気評価ツールです。
以下の8つの状況で、どの程度うとうとするか(居眠りする可能性があるか)を、0〜3の4段階で自己採点してください。0=居眠りすることはない、1=時々居眠りする、2=しばしば居眠りする、3=ほぼより効果的に居眠りする。
1. 座って読書しているとき 2. テレビを観ているとき 3. 会議や劇場など、公の場で動かずに座っているとき 4. 1時間続けて車に乗せてもらっているとき 5. 午後、状況が許せば横になって休息するとき 6. 座って誰かと話をしているとき 7. 昼食後(アルコールなし)、静かに座っているとき 8. 車を運転中、交通渋滞で2〜3分止まっているとき
合計点が11点以上の場合、過度の眠気があると判定され、睡眠時無呼吸症候群の可能性が高まります。特に15点以上は重度の眠気であり、早急な受診が推奨されます。
STOPBANGスコア——SASリスクの国際的評価基準 先ほどのセルフチェック15項目に加え、医療機関でも使用される「STOPBANG質問票」も簡易的に確認できます。以下の8項目それぞれに「はい/いいえ」で回答し、「はい」の数をカウントしてください。
S(Snoring):大きないびきをかくか? T(Tiredness):日中に疲労感や眠気を感じるか? O(Observed):睡眠中に呼吸が止まるのを目撃されたか? P(Pressure):高血圧の治療を受けているか? B(BMI):BMIが35以上か? A(Age):年齢が50歳以上か? N(Neck):首周りが40cm以上か? G(Gender):男性か?
3個以上該当でSASの中リスク、5個以上で高リスクと判定されます。この評価は医療機関での初期スクリーニングにも使用されるため、受診前に自分で確認しておくと診察がスムーズに進みます。
家族ができるいびき観察のポイント 自分のいびきは自分では聞こえません。そのため、家族やパートナーの観察が非常に重要です。もしあなたの家族がいびきをかいていて心配な場合、以下のポイントを観察・記録してください。
まず、いびきの途中で呼吸が止まるかどうかを確認します。10秒以上の呼吸停止があれば、それは無呼吸です。1時間あたり何回くらい無呼吸が起きるかを大まかに数えてみてください。5回以上あればSASの可能性が高いです。
次に、いびきの音の変化に注目しましょう。一定のリズムのいびきよりも、不規則で「ガガッ」「ゴボッ」といった音が混じるいびきの方が危険度が高い傾向があります。また、寝姿勢によるいびきの変化(仰向けで悪化する、横向きで改善するなど)も重要な情報です。
これらの観察結果を記録し、医療機関を受診する際に持参すると、診断の精度が格段に上がります。スマートフォンでいびきの音を録音しておくのも非常に有効です。
睡眠外来で行われる検査の詳細 簡易検査(自宅で実施) まず行われるのが自宅での簡易検査です。小さな機器(パルスオキシメータ+気流センサー)を就寝前に装着し、一晩の睡眠中の酸素飽和度、脈拍、気流、いびき音を記録します。検査機器は病院から貸し出され、自宅のベッドで通常通り眠るだけなので、身体的な負担はほとんどありません。費用は保険適用で3割負担の場合、約2,700円程度です。
簡易検査の結果、1時間あたりの無呼吸低呼吸指数(AHI)が40以上の場合は、そのままCPAP治療 が開始されることもあります。AHIが5〜40の場合は、より詳細な精密検査に進みます。
精密検査・PSG検査(病院で1泊) 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)は、睡眠障害の診断におけるゴールドスタンダード(最も信頼性の高い検査)です。病院に1泊入院し、脳波、眼球運動、心電図、筋電図、呼吸気流、胸腹部の動き、酸素飽和度、体位、いびき音など、約15項目を一晩かけて同時記録します。
検査は夕方に入院し、各種センサーを装着した状態で就寝。翌朝退院します。センサーの装着に違和感を感じる方もいますが、多くの方が問題なく眠れています。費用は保険適用で3割負担の場合、約10,000〜15,000円程度(入院費込み)です。
参考文献 [1] Nagayoshi M, et al. Risk factors for snoring among Japanese men and women: a community-based cross-sectional study (CIRCS). Sleep Breath . 2011;15(1):63-69.
[2] Ravesloot MJ, et al. The undervalued potential of positional therapy in position-dependent snoring and obstructive sleep apnea. Sleep Breath . 2013;17(1):39-49.
[3] 日本睡眠学会. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020.
まとめ いびきのセルフチェックは、自分の睡眠の質と健康リスクを見直す重要な第一歩です。15項目のチェックリストで8個以上該当した方は、できるだけ早く専門医を受診しましょう。4〜7個該当の方も、生活習慣の改善と医療機関への相談を検討してください。いびきは「たかがいびき」ではなく、心臓や脳の疾患リスクにつながる重要なサインです。まずは今日、自分のいびきリスクをチェックしてみてください。